フーリエ級数の性質(区間の違いと周期関数への拡張)
学習目標
この授業では、フーリエ級数に関する重要な概念と技能の習得を目指します。
まず、区間の違いによるフーリエ級数の変化について学びます。異なる区間でのフーリエ級数展開の計算方法を習得し、区間の違いが係数にどのような影響を与えるかを理解します。具体的な関数を用いて、異なる区間での展開を比較することで、その違いを実感することができます。
次に、周期関数への拡張方法について学習します。不連続な拡張と連続な拡張の違いを理解し、それぞれの拡張方法がフーリエ級数にどのような影響を与えるかを学びます。具体的な関数を例に、異なる拡張方法を比較することで、その特徴を把握します。
さらに、フーリエ級数の収束性について深く理解を進めます。不連続点での収束性やギブス現象の特徴を学び、連続関数と不連続関数の収束性の違いについて理解を深めます。
0. 前提知識の確認
この授業を理解するためには、以下の知識が必要となります。
フーリエ級数の基本形について理解していることが重要です。また、偶関数・奇関数の性質、三角関数の積分、そして無限級数の収束性についての基礎知識が必要です。
これらの理解度を確認するため、以下の関数の偶奇性について考えてみましょう。
確認問題と解説
まず、\(f(x) = x^2\) について考えます。 この関数は偶関数です。なぜなら、\(f(-x) = (-x)^2 = x^2 = f(x)\) となり、グラフはy軸について対称となるためです。
次に、\(f(x) = \sin x\) について考えます。 この関数は奇関数です。なぜなら、\(f(-x) = \sin(-x) = -\sin x = -f(x)\) となり、グラフは原点について対称となるためです。
最後に、\(f(x) = x \cos x\) について考えます。 この関数は奇関数です。なぜなら、\(f(-x) = (-x) \cos(-x) = -x \cos x = -f(x)\) となります。これは、奇関数と偶関数の積は奇関数になるという性質を利用しています。
1. 区間の違いによるフーリエ級数の変化
1.1 基本区間の違い
フーリエ級数展開は、関数の定義域(基本区間)によって異なる結果を与えます。この違いを具体的な例で見てみましょう。
例えば、関数 \(f(x) = x\) を \(0 \leq x < \pi\) で考えます。この関数を異なる区間で展開すると、以下のような結果が得られます。
区間 \([-\pi, \pi)\) での展開では、
となります。
一方、区間 \([0, 2\pi)\) での展開では、
となります。
これらの展開の違いは、関数を周期関数として実数全体に拡張した際に、異なる関数になることに起因します。
1.2 区間の違いによる影響
区間が異なることで、フーリエ級数展開にはいくつかの重要な違いが生じます。
定数項については、区間の中心が原点からずれると定数項が現れます。例えば、区間 \([0, 2\pi)\) での展開では定数項 \(\pi\) が現れます。
三角関数の係数の符号については、区間の対称性が変わることで係数の符号が変化します。例えば、区間 \([-\pi, \pi)\) での展開では \((-1)^{n+1}\) という因子が現れます。
全体的な係数の大きさについては、区間の長さが変わることで係数の大きさも変化します。例えば、区間 \([0, \pi)\) から \([-\pi, \pi)\) への拡張では係数が2倍になります。
確認問題 区間 \([0, \pi)\) で定義された関数 \(f(x) = x\) を、区間 \([-\pi, \pi)\) で展開した場合の定数項を求めてみましょう。
2. 周期関数への拡張方法
2.1 不連続な拡張
区間 \([0, \pi)\) で定義された関数 \(f(x) = x\) について、周期関数への拡張方法を考えます。
まず、最も単純な方法として、関数をそのまま伸ばして周期 \(2\pi\) の周期関数に拡張する方法があります。この場合、関数は以下のように定義されます。
\([0, \pi)\) の区間では元の関数をそのまま使用します:
\([\pi, 2\pi)\) の区間では、関数をそのまま伸ばして定義します:
次に、\([-\pi, 0)\) の区間での関数を導出します。周期 \(2\pi\) の性質を利用すると、\(x \in [-\pi, 0)\) に対して \(x + 2\pi \in [\pi, 2\pi)\) となります。したがって、
したがって、\([-\pi, \pi)\) での関数の定義は以下のようになります:
このとき、フーリエ級数展開は以下のようになります。
まず、フーリエ係数を計算します。\(f_1(x)\) は奇関数なので、余弦項は現れません。正弦項の係数 \(b_n\) は以下のように計算されます。
積分区間を \([-\pi, 0)\) と \([0, \pi)\) に分けて計算します。
\(x \sin nx\) の積分を計算します。
これを区間 \([0, \pi]\) で評価すると、
\(\cos n\pi = (-1)^n\) かつ \(\sin n\pi = 0\) なので、
したがって、フーリエ級数展開は以下のようになります。
ただし、この拡張方法では \(x = \pi\) において関数が不連続になることに注意が必要です。
2.2 連続な拡張
次に、関数を \(\pi\) で折り返すことで連続関数として拡張する方法を考えます。この場合、関数は以下のように定義されます。
\([0, \pi)\) の区間では元の関数をそのまま使用します:
\([\pi, 2\pi)\) の区間では、関数を \(\pi\) で折り返して定義します:
次に、\([-\pi, 0)\) の区間での関数を導出します。周期 \(2\pi\) の性質を利用すると、\(x \in [-\pi, 0)\) に対して \(x + 2\pi \in [\pi, 2\pi)\) となります。したがって、
したがって、\([-\pi, \pi)\) での関数の定義は以下のようになります:
このとき、フーリエ級数展開は以下のようになります。
まず、フーリエ係数を計算します。\(f_2(x)\) は偶関数なので、正弦項は現れません。定数項 \(a_0\) と余弦項の係数 \(a_n\) を計算します。
定数項 \(a_0\) は以下のように計算されます:
余弦項の係数 \(a_n\) は以下のように計算されます:
\(x \cos nx\) の積分を計算します。
これを区間 \([0, \pi]\) で評価すると、
\(\sin n\pi = 0\) かつ \(\cos n\pi = (-1)^n\) なので、
したがって、フーリエ級数展開は以下のようになります。
この拡張方法では、関数が連続となるため、フーリエ級数の収束性が改善されます。
考察課題 連続な拡張の場合、なぜ正弦項が現れないのでしょうか。これは関数の対称性と深く関係しています。
3. 拡張方法の違いによる影響
3.1 フーリエ級数の特徴
不連続な拡張と連続な拡張では、フーリエ級数の性質が大きく異なります。
不連続な拡張の場合、正弦項のみが現れ、係数は \(1/n\) の速さで減衰します。このため、収束は比較的遅くなります。
一方、連続な拡張の場合、定数項と余弦項が現れ、係数は \(1/n^2\) の速さで減衰します。このため、収束は速くなります。
これらの違いは、実際の収束速度に大きな影響を与えます。例えば、項数を変えた場合の誤差を比較すると以下のようになります。
項数が10の場合、不連続拡張では約0.1の誤差が生じますが、連続拡張では約0.01の誤差にとどまります。
項数が100の場合、不連続拡張では約0.01の誤差となり、連続拡張では約0.0001まで誤差が減少します。
項数が1000の場合、不連続拡張では約0.001の誤差が残りますが、連続拡張では約0.000001という非常に小さな誤差となります。
3.2 収束性の違い
不連続な拡張と連続な拡張では、収束の性質も大きく異なります。
不連続な拡張の場合、不連続点では左右極限の平均値に収束します。また、ギブス現象と呼ばれる約9%の過剰振動が発生します。この振動は項数を増やしても完全には消えないという特徴があります。
一方、連続な拡張の場合、すべての点で関数値に収束します。ギブス現象は発生せず、一様収束するという望ましい性質を持ちます。
ギブス現象について、より具体的に説明しましょう。不連続点(例えば \(x = \pi\))の近くでは、フーリエ級数の部分和が元の関数値を超えて振動します。項数を増やしても、この振動の大きさは約9%のまま変化しません。ただし、振動の幅は狭くなっていきます。
4. 具体例:2次関数の場合
区間 \([0, \pi)\) で定義された2次関数 \(f(x) = x^2\) について、二つの拡張方法を比較してみましょう。
不連続な拡張の場合、フーリエ級数展開は以下のようになります。
一方、連続な拡張の場合、フーリエ級数展開は以下のようになります。
考察課題 2次関数の連続な拡張において、なぜ正弦項が消えるのでしょうか。これは関数の対称性から説明することができます。
5. 重要ポイントのまとめ
フーリエ級数の性質について、これまでの学習内容をまとめましょう。
区間の違いについて理解することは非常に重要です。同じ関数でも定義域が異なると、周期関数として拡張した際に異なる関数になります。その結果、フーリエ級数展開も異なる結果を与えることになります。
拡張方法の違いも重要な要素です。不連続な拡張では正弦項が主となり、収束が比較的遅く、ギブス現象が発生します。一方、連続な拡張では余弦項が主となり、収束が速く、ギブス現象は発生しません。
収束性については、不連続点では左右極限の平均値に収束し、連続点では関数値に収束します。また、係数の減衰速度が収束の速さを決定する重要な要因となります。
これらの知識は実用的な示唆も与えてくれます。連続関数の方がフーリエ級数で近似しやすく、不連続点ではギブス現象に注意が必要です。また、必要な精度に応じて項数を適切に調整する必要があります。