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第10回 フーリエ変換による偏微分方程式の解法 講義ノート

学習目標

フーリエ変換を用いた偏微分方程式の解法について、その基本的な考え方と具体的な適用方法を学びます。特に、熱方程式や波動方程式などの基本的な偏微分方程式に対して、フーリエ変換を適用することで得られる解法の特徴と限界を理解します。

1. フーリエ変換による偏微分方程式の解法の基本

1.1 フーリエ変換の意義

偏微分方程式を解く際にフーリエ変換を用いることには、重要な数学的意義があります。フーリエ変換により、空間変数に関する偏微分が代数演算に変換されるという性質は、複雑な偏微分方程式を扱いやすい形に変形することを可能にします。特に、無限領域における問題や、境界条件が単純な場合に、その真価を発揮します。

1.2 解法の基本構造

フーリエ変換による偏微分方程式の解法は、以下の三つの段階から構成されます。

まず、与えられた偏微分方程式に対してフーリエ変換を適用します。このとき、空間変数に関する微分は代数演算に変換され、時間変数に関する微分はそのままの形で残ります。変換後の方程式は、時間に関する常微分方程式となります。

次に、得られた常微分方程式を解きます。この段階では、通常の常微分方程式の解法が適用可能です。初期条件も同様にフーリエ変換して、変換後の方程式に適用します。

最後に、得られた解に対して逆フーリエ変換を適用し、元の偏微分方程式の解を求めます。この段階では、フーリエ変換の逆変換公式を用い、必要に応じて留数定理などの複素解析の手法を活用します。

1.3 基本的な変換公式

フーリエ変換による偏微分方程式の解法において、以下の変換公式は基本的な役割を果たします。

時間微分の変換は、変換後も微分の形を保ちます:

\[ \mathcal{F}[u_t(x,t)] = \frac{d}{dt}\hat{u}(k,t) \]

空間微分の変換は、\(ik\)を掛ける操作に変換されます:

\[ \mathcal{F}[u_x(x,t)] = ik\hat{u}(k,t) \]

2階空間微分の変換は、\(-k^2\)を掛ける操作に変換されます:

\[ \mathcal{F}[u_{xx}(x,t)] = -k^2\hat{u}(k,t) \]

2. 熱方程式の解法

2.1 1次元熱方程式

1次元熱方程式は、以下の形で与えられます:

\[ \frac{\partial u}{\partial t} = \alpha\frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \]

この方程式に対してフーリエ変換を適用する過程を詳しく見ていきましょう。

まず、方程式の左辺と右辺にフーリエ変換を適用します:

\[ \mathcal{F}[u_t(x,t)] = \frac{d}{dt}\hat{u}(k,t) \]
\[ \mathcal{F}[\alpha u_{xx}(x,t)] = -\alpha k^2\hat{u}(k,t) \]

これにより、変換後の方程式は以下の形になります:

\[ \frac{d}{dt}\hat{u}(k,t) = -\alpha k^2\hat{u}(k,t) \]

この常微分方程式は、変数分離法を用いて解くことができます。解は指数関数の形で表され:

\[ \hat{u}(k,t) = \hat{u}(k,0)e^{-\alpha k^2t} \]

ここで、\(\hat{u}(k,0)\)は初期条件のフーリエ変換を表します。

最後に、得られた解に対して逆フーリエ変換を適用します:

\[ u(x,t) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}\hat{u}(k,0)e^{-\alpha k^2t}e^{ikx}dk \]

この積分は、ガウス関数のフーリエ変換の性質を利用して計算することができます。

2.2 初期値問題の解

初期条件 \( u(x,0) = f(x) \) が与えられた場合、解を求める過程は以下のようになります。

まず、初期条件のフーリエ変換を計算します:

\[ \hat{f}(k) = \mathcal{F}[f(x)] \]

次に、この変換を先ほど得られた解に代入します:

\[ \hat{u}(k,t) = \hat{f}(k)e^{-\alpha k^2t} \]

最後に、逆フーリエ変換を適用して最終的な解を求めます:

\[ u(x,t) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}\hat{f}(k)e^{-\alpha k^2t}e^{ikx}dk \]

3. 波動方程式の解法

3.1 1次元波動方程式

1次元波動方程式は、以下の形で与えられます:

\[ \frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = c^2\frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \]

この方程式に対してフーリエ変換を適用する過程を詳しく見ていきましょう。

まず、方程式の左辺と右辺にフーリエ変換を適用します:

\[ \mathcal{F}[u_{tt}(x,t)] = \frac{d^2}{dt^2}\hat{u}(k,t) \]
\[ \mathcal{F}[c^2u_{xx}(x,t)] = -c^2k^2\hat{u}(k,t) \]

これにより、変換後の方程式は以下の形になります:

\[ \frac{d^2}{dt^2}\hat{u}(k,t) = -c^2k^2\hat{u}(k,t) \]

この2階線形常微分方程式の解は、三角関数の線形結合として表されます:

\[ \hat{u}(k,t) = A(k)\cos(ckt) + B(k)\sin(ckt) \]

ここで、\(A(k)\)\(B(k)\)は初期条件から決定される係数です。

最後に、得られた解に対して逆フーリエ変換を適用します:

\[ u(x,t) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}[A(k)\cos(ckt) + B(k)\sin(ckt)]e^{ikx}dk \]

3.2 初期値問題の解

初期条件 \( u(x,0) = f(x) \), \( u_t(x,0) = g(x) \) が与えられた場合、解を求める過程は以下のようになります。

まず、初期条件のフーリエ変換を計算します:

\[ \hat{f}(k) = \mathcal{F}[f(x)], \quad \hat{g}(k) = \mathcal{F}[g(x)] \]

次に、これらの変換を用いて係数を決定します:

\[ A(k) = \hat{f}(k), \quad B(k) = \frac{\hat{g}(k)}{ck} \]

最後に、これらの係数を用いて最終的な解を求めます:

\[ u(x,t) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}[\hat{f}(k)\cos(ckt) + \frac{\hat{g}(k)}{ck}\sin(ckt)]e^{ikx}dk \]

まとめ

フーリエ変換による偏微分方程式の解法は、変換→常微分方程式→逆変換という流れで理解することができます。各ステップの意味と計算方法を理解し、熱方程式と波動方程式の基本的な解法手順を習得することが重要です。また、解法の利点と限界を理解し、適用可能な問題と注意点を把握することも必要です。実際の問題に適用する際には、計算技術の習得と物理的意味の理解が不可欠です。