第1回:ベクトル空間と基底(関数空間における直交系)講義ノート
学習目標
この授業では、以下の概念と技能を習得することを目指します: - ベクトル空間の定義を理解し、具体例を挙げられる - 関数空間における内積と直交性の概念を理解する - 三角関数系の直交性を確認できる
1. ベクトル空間の基本概念
1.1 ベクトル空間の定義
ベクトル空間 \(V\) は、以下の8つの公理を満たす集合です:
- 加法の閉性: \(\forall u, v \in V, u + v \in V\)
- 加法の結合律: \(\forall u, v, w \in V, (u + v) + w = u + (v + w)\)
- 加法の交換律: \(\forall u, v \in V, u + v = v + u\)
- 零元の存在: \(\exists 0 \in V, \forall v \in V, v + 0 = v\)
- 逆元の存在: \(\forall v \in V, \exists -v \in V, v + (-v) = 0\)
- スカラー倍の閉性: \(\forall \alpha \in \mathbb{R}, \forall v \in V, \alpha v \in V\)
- スカラー倍の分配律: \(\forall \alpha, \beta \in \mathbb{R}, \forall v \in V, (\alpha + \beta)v = \alpha v + \beta v\)
- スカラー倍の結合律: \(\forall \alpha, \beta \in \mathbb{R}, \forall v \in V, \alpha(\beta v) = (\alpha \beta)v\)
1.2 具体例
- 実数全体 \(\mathbb{R}\):
- 通常の加法と乗法でベクトル空間となる
-
零元は0、逆元は符号を反転させた数
-
連続関数空間 \(C[0,1]\):
- 関数の加法: \((f + g)(x) = f(x) + g(x)\)
- スカラー倍: \((\alpha f)(x) = \alpha f(x)\)
- 零元: 恒等的に0の関数
- 逆元: 符号を反転させた関数
2. 関数空間における内積と直交性
2.1 内積の定義
区間 \([a,b]\) 上の関数空間における内積は以下のように定義されます: $$ \langle f, g \rangle = \int_{a}^{b} f(x)g(x) \, dx $$
2.2 直交性
2つの関数 \(f\) と \(g\) が直交するとは: $$ \langle f, g \rangle = 0 $$ が成り立つことをいいます。
2.3 具体例:三角関数の直交性
区間 \([-\pi, \pi]\) 上で: 1. \(\langle 1, \sin x \rangle = 0\) 2. \(\langle 1, \cos x \rangle = 0\) 3. \(\langle \sin x, \cos x \rangle = 0\) 4. \(\langle \sin mx, \sin nx \rangle = 0\) (\(m \neq n\)) 5. \(\langle \cos mx, \cos nx \rangle = 0\) (\(m \neq n\))
3. 正規直交系
3.1 正規化
関数 \(f\) のノルムは: $$ |f| = \sqrt{\langle f, f \rangle} $$ で定義され、\(\|f\| = 1\) のとき \(f\) は正規化されているといいます。
3.2 具体例:正規化された三角関数系
4. 重要ポイントのまとめ
- ベクトル空間の理解:
- 8つの公理を満たす集合
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関数空間もベクトル空間の例
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内積と直交性:
- 関数空間における内積の定義
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直交性の意味と重要性
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三角関数系:
- 直交性の確認方法
- 正規化の手順
5. 確認問題
以下の問いについて考えてみましょう: 1. ベクトル空間の定義を自分の言葉で説明できますか? 2. 関数空間をベクトル空間として扱うことの利点は何ですか? 3. 三角関数の直交性は、フーリエ級数展開とどのように関係していますか?