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第2回 フーリエ級数展開

学習目標

  • 周期関数の定義と基本的な性質を理解する
  • 三角関数の直交性を理解し、フーリエ級数展開の原理を学ぶ
  • 有限区間で定義された関数を周期関数へ拡張する方法を理解する

1. 周期関数

1.1 定義

関数 \(f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}\) が周期 \(T\)\(T > 0\))をもつ周期関数であるとは、すべての実数 \(x \in \mathbb{R}\) に対して次が成り立つことをいう: $$ f(x + T) = f(x) $$ このとき、\(T\) を関数 \(f(x)\) の周期という。

1.2 基本区間の設定

周期関数を考える際には、関数の定義域全体での値を一意に定めるために、1周期分の基本区間を必ず半開区間(例えば \([a, b)\)\((a, b]\))で設定する。閉区間で定義すると端点の値が重複してしまうため注意が必要である。

例: 関数 \(f: \mathbb{R} \to \mathbb{R}\) を基本区間 \((0, 2\pi]\)\(f(x) = x\) と定義し、周期 \(2\pi\) で延長する場合: - \(x \in (0, 2\pi]\)\(f(x) = x\) - 任意の \(x \in \mathbb{R}\) に対して \(f(x + 2\pi) = f(x)\)

1.3 周期関数の性質

以下の性質が成り立つ。ただし、\(f, g\) は周期 \(T\) の周期関数とする。

  1. 代数的性質
  2. 和:\(f + g\) は周期 \(T\) の周期関数
  3. 差:\(f - g\) は周期 \(T\) の周期関数
  4. 積:\(f \cdot g\) は周期 \(T\) の周期関数
  5. 定数倍:\(cf\)\(c \in \mathbb{R}\))は周期 \(T\) の周期関数

  6. 微分・積分

  7. \(f\) が微分可能なら、\(f'\) も周期 \(T\) の周期関数
  8. \(f\) が可積分なら、\(\int f(x)dx\) は適切な積分定数の選択により周期 \(T\) の周期関数となる

  9. 周期の倍数

  10. 周期 \(T\) の関数は周期 \(nT\)\(n \in \mathbb{N}\))の関数でもある

  11. 異なる周期の和

  12. 周期 \(T_1\) の関数と周期 \(T_2\) の関数の和の周期は、一般に \(T_1\)\(T_2\) の最小公倍数となる

2. 三角関数の直交性

2.1 直交性の定義

区間 \([-\pi, \pi)\) 上で定義された2つの関数 \(f, g \in L^2[-\pi, \pi)\) が直交するとは、次の条件を満たすことである: $$ \int_{-\pi}^{\pi} f(x)g(x)\,dx = 0 $$

2.2 三角関数の直交関係

以下の関係が成り立つ。ただし、\(n, m \in \mathbb{N}\) とする: $$ \int_{-\pi}^{\pi} \sin nx \cos mx \,dx = 0 $$ $$ \int_{-\pi}^{\pi} \sin nx \sin mx \,dx = \pi \delta_{nm} $$ $$ \int_{-\pi}^{\pi} \cos nx \cos mx \,dx = \pi \delta_{nm} $$ $$ \int_{-\pi}^{\pi} \sin nx \,dx = 0, \quad \int_{-\pi}^{\pi} \cos nx \,dx = 0 $$ ただし、\(\delta_{nm}\) はクロネッカーのデルタ(\(n=m\) のとき1、それ以外は0)である。

2.3 完全正規直交系と基底

周期 \(2\pi\) の区間で定義された \(L^2\) 空間において、関数の集合 $$ {1, \cos x, \sin x, \cos 2x, \sin 2x, \dots } $$ は完全正規直交系をなし、任意の区分的に連続な周期関数を一意に展開できる基底を与える。


3. 有限区間で定義された関数の周期的延長

有限区間 \([a,b)\)\((a,b]\) で定義された関数は、その区間を基本区間とみなして周期的に延長できる。この際、以下の点に注意が必要である:

  1. 基本区間の選択
  2. 半開区間での定義が必須(端点の値の重複を避けるため)
  3. 区間の長さが周期となる

  4. 延長の方法

  5. 連続的延長:境界点で連続となるように値を定める
  6. 不連続な延長:周期性のみを考慮して値を定める

  7. 境界点での値

  8. 左端点と右端点の少なくとも一方は開区間とする
  9. 閉じた端点での値は、関数の連続性を考慮して決定する

4. フーリエ級数展開

4.1 定義と基本的性質

周期 \(2\pi\) を持つ関数 \(f \in L^2[-\pi,\pi)\) は、次のように三角関数の無限級数で表すことができる: $$ f(x) \sim \frac{a_0}{2} + \sum_{n=1}^{\infty}(a_n \cos nx + b_n \sin nx) $$

ここで、記号「\(\sim\)」は、右辺の級数が収束する点において、その収束値が以下のようになることを表す: - 連続点では \(f(x)\) に収束 - 不連続点では左右極限の平均値 \(\frac{f(x+0) + f(x-0)}{2}\) に収束

4.2 フーリエ係数

係数 \(a_n, b_n\) は以下のように計算される: $$ a_0 = \frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x) \,dx $$ $$ a_n = \frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x)\cos nx\,dx, \quad n \geq 1 $$ $$ b_n = \frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x)\sin nx\,dx, \quad n \geq 1 $$

これらは関数空間 \(L^2[-\pi,\pi)\) における内積 $$ \langle f, g \rangle = \frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(x)g(x)\,dx $$ に関して三角関数系に射影した成分である。

4.3 フーリエ級数の収束条件(ディリクレの条件)

フーリエ級数が点 \(x\) において収束するための十分条件は以下の通りである:

  1. 関数が区間 \([-\pi, \pi)\) で区分的に連続である
  2. 有限個の不連続点のみを持つ
  3. 各不連続点で左右の極限が存在する

このとき、フーリエ級数は以下のように収束する: - 連続点 \(x\) では \(f(x)\) に収束 - 不連続点 \(x\) では左右極限の平均値 \(\frac{f(x+0) + f(x-0)}{2}\) に収束


5. まとめ

  1. 周期関数の定義と基本区間
  2. 基本区間は必ず半開区間で設定
  3. 周期関数の代数的性質と微分・積分の性質を理解

  4. 三角関数系の直交性

  5. \(L^2[-\pi,\pi]\) 空間での完全正規直交系
  6. 内積による係数の決定

  7. フーリエ級数展開

  8. 区分的に連続な関数の展開可能性
  9. 収束値の特徴(連続点と不連続点での違い)
  10. ディリクレの収束条件の重要性