第11回 ラプラス変換の基礎 講義ノート
学習目標
この授業では、以下の概念と技能を習得することを目指します: - ラプラス変換の定義と基本的な性質を理解する - 代表的な関数のラプラス変換を計算できる - ラプラス変換とフーリエ変換の関係を理解する - ラプラス変換の収束性について理解する
1. ラプラス変換の導入
1.1 定義と基本的な性質
関数 \(f(t)\) のラプラス変換 \(\mathcal{L}[f(t)]\) は以下のように定義されます: $$ \mathcal{L}[f(t)] = F(s) = \int_{0}^{\infty} f(t) e^{-st} dt $$ ここで、\(s\) は複素数であり、\(s = \sigma + i\omega\) と表されます。
ラプラス変換はフーリエ変換に比べると積分される条件は緩くなっているが、それでもいつも存在するとは限らない。例えば\(f(t)=e^{t}\)であるなら\(\mathcal{L}[f](s)=\int_0^\infty 1 dt =\infty\) なので存在しない。
ラプラス変換が存在するための十分条件は: 1. \(f(t)\) が区分的に連続であること 2. 指数関数的増大条件を満たすこと: $$ |f(t)| \leq Me^{at} \quad (t \geq 0) $$ を満たす定数 \(M > 0\) と \(a \in \mathbb{R}\) が存在すること
このとき、\(\text{Re}(s) > a\) でラプラス変換は絶対収束します。
1.2 基本的な変換例
代表的な関数のラプラス変換を計算してみましょう:
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指数関数: $$ \mathcal{L}[e^{at}] = \frac{1}{s-a} \quad (\text{Re}(s) > a) $$
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三角関数: $$ \mathcal{L}[\sin \omega t] = \frac{\omega}{s^2 + \omega^2}, \quad \mathcal{L}[\cos \omega t] = \frac{s}{s^2 + \omega^2} $$
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べき関数: $$ \mathcal{L}[t^n] = \frac{n!}{s^{n+1}} \quad (n = 0, 1, 2, \ldots) $$
これらの変換対は、以下の3つの方法で導出できます:
導出方法1:部分積分を用いた計算
ラプラス変換の定義から、部分積分を2回用いて計算する方法です:
ここで、\(\mathcal{L}[\sin \omega t]\) について解くと:
この方法では、部分積分を2回用いることで、元の積分を再び現れる形に帰着させ、方程式として解いています。これは、微分方程式の解法と同様の考え方で、ラプラス変換が微分方程式の解法に適している理由の一つを示唆しています。
同様に、\(\cos \omega t\) のラプラス変換は、三角関数の微分関係とラプラス変換の微分の性質を用いて、より簡潔に導出できます:
ここで、\(\mathcal{L}[\sin \omega t] = \frac{\omega}{s^2 + \omega^2}\) を代入して \(\mathcal{L}[\cos \omega t]\) について解くと:
この導出方法は、三角関数の微分関係 \(\frac{d}{dt}\cos \omega t = -\omega\sin \omega t\) とラプラス変換の微分の性質を直接的に利用しており、より本質的な関係性を示しています。
導出方法2:オイラーの公式を用いる方法
オイラーの公式 \(e^{i\omega t} = \cos \omega t + i\sin \omega t\) を利用する方法です:
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まず、\(e^{i\omega t}\) のラプラス変換を計算: $$ \mathcal{L}[e^{i\omega t}] = \frac{1}{s-i\omega} = \frac{s+i\omega}{s^2 + \omega^2} $$
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オイラーの公式より: $$ \mathcal{L}[e^{i\omega t}] = \mathcal{L}[\cos \omega t] + i\mathcal{L}[\sin \omega t] $$
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実部と虚部を比較: $$ \mathcal{L}[\cos \omega t] = \frac{s}{s^2 + \omega^2}, \quad \mathcal{L}[\sin \omega t] = \frac{\omega}{s^2 + \omega^2} $$
導出方法3:微分方程式を用いる方法
\(\sin \omega t\) が満たす微分方程式を利用する方法です:
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\(\sin \omega t\) は以下の微分方程式を満たします: $$ \frac{d^2}{dt^2}\sin \omega t + \omega^2\sin \omega t = 0 $$
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この微分方程式にラプラス変換を適用: $$ s^2\mathcal{L}[\sin \omega t] - s\sin 0 - \frac{d}{dt}\sin \omega t|_{t=0} + \omega^2\mathcal{L}[\sin \omega t] = 0 $$
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初期条件 \(\sin 0 = 0\), \(\frac{d}{dt}\sin \omega t|_{t=0} = \omega\) を代入: $$ (s^2 + \omega^2)\mathcal{L}[\sin \omega t] = \omega $$
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よって: $$ \mathcal{L}[\sin \omega t] = \frac{\omega}{s^2 + \omega^2} $$
これらの導出方法は、それぞれ異なる視点からラプラス変換を理解する助けとなります。特に、オイラーの公式を用いる方法は、複素関数論との関連を示し、微分方程式を用いる方法は、ラプラス変換が微分方程式の解法に適している理由を示唆しています。
2. ラプラス変換の応用
2.1 微分方程式への応用
ラプラス変換は微分方程式を解く強力な道具となります。以下の性質を用いて、微分方程式を代数方程式に変換できます:
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1階微分の性質: $$ \mathcal{L}[f'(t)] = sF(s) - f(0) $$
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2階微分の性質: $$ \mathcal{L}[f''(t)] = s^2F(s) - sf(0) - f'(0) $$
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一般のn階微分の性質: $$ \mathcal{L}[f^{(n)}(t)] = s^n F(s) - s^{n-1}f(0) - s^{n-2}f'(0) - \cdots - f^{(n-1)}(0) $$
これらの性質を用いることで、微分方程式を代数方程式に変換し、解を求めることができます。
2.2 積分方程式への応用
積分の性質: $$ \mathcal{L}\left[\int_{0}^{t} f(\tau) d\tau\right] = \frac{F(s)}{s} $$ を用いて、積分方程式も解くことができます。
2.3 シフト定理
s領域でのシフト定理(第二シフト定理)は、時間領域での指数関数による乗算が、s領域でのシフトに対応することを示す重要な定理です:
ここで: - \(f(t)\) は元の関数 - \(\theta\) は実数 - \(F(s)\) は \(f(t)\) のラプラス変換
この定理は、時間領域での指数関数による乗算が、s領域でのシフトに対応することを示しています。
例として、\(f(t) = \sin t\) の場合: $$ \mathcal{L}[e^{\theta t}\sin t] = \frac{1}{(s-\theta)^2 + 1} $$
この定理は、減衰振動や増幅振動を含むシステムの解析に特に有用です。
2.4 単位ステップ関数との組み合わせ
単位ステップ関数:
のラプラス変換:
を用いて、区分的に定義された関数の変換も可能です。
3. フーリエ変換との関係
3.1 基本的な関係
フーリエ変換は、ラプラス変換の特殊な場合と見なすことができます: - \(s = i\omega\) とおくと、ラプラス変換はフーリエ変換に一致します - ただし、\(f(t)\) が \(t < 0\) で 0 である必要があります
3.2 主な違い
- 定義域:
- フーリエ変換:\(-\infty < t < \infty\)
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ラプラス変換:\(0 \leq t < \infty\)
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収束性:
- フーリエ変換:絶対可積分性が必要
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ラプラス変換:指数関数的増大条件で十分
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応用:
- フーリエ変換:信号処理、波動現象
- ラプラス変換:微分方程式の解法、制御理論
4. 重要ポイントのまとめ
- ラプラス変換の定義と収束条件を理解する
- 基本的な関数の変換を覚える
- 微分方程式や積分方程式への応用を理解する
- フーリエ変換との関係と違いを理解する
5. 演習のポイント
- 収束性の確認:
- 指数関数的増大条件を確認
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収束領域を特定
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性質の活用:
- 微分・積分の性質を利用した計算
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平行移動・スケーリングの性質の活用
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変換表の利用:
- 基本的な関数の変換を覚える
- 複雑な関数は基本的な関数の組み合わせとして考える