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第12回 ラプラス変換の計算演習 講義ノート

学習目標

この授業では、以下の概念と技能を習得することを目指します: - 基本的なラプラス逆変換の計算方法を理解する - 部分分数分解を用いたラプラス逆変換の計算方法を習得する - 微分方程式をラプラス変換を用いて解く方法を理解する

1. 基本的なラプラス逆変換

1.0 ラプラス逆変換の公式

ラプラス逆変換は以下の複素積分で定義されます:

\[ f(t) = \mathcal{L}^{-1}[F(s)] = \frac{1}{2\pi i} \int_{c-i\infty}^{c+i\infty} F(s)e^{st}ds \]

ここで、\(c\)\(F(s)\)のすべての特異点の実部より大きい実数です。

この積分を直接計算することは一般的に非常に困難です。そのため、実際の計算では以下のような方法を用います: 1. 基本的な変換対の表を利用する 2. 部分分数分解を適用する 3. 完全平方を用いて変形する 4. シフト定理や畳み込み定理などの性質を利用する

1.1 完全平方を用いた逆変換

分母が2次式の場合、完全平方の形に変形することで逆変換を求めやすくなります。

例1: $$ F(s) = \frac{1}{s^2 + 4s + 5} $$

  1. 分母を完全平方の形に変形:
\[ s^2 + 4s + 5 = (s^2 + 4s + 4) + 1 = (s+2)^2 + 1 \]
  1. 基本的な形に帰着:
\[ \frac{1}{(s+2)^2 + 1} \]

これは \(\frac{1}{s^2 + 1}\) の形を \(s\)\(s+2\) で置き換えたものです。

  1. シフト定理を適用:
\[ \mathcal{L}^{-1}\left[\frac{1}{(s+2)^2 + 1}\right] = e^{-2t} \sin t \]

1.2 分子の調整

分子が1次式の場合、分母の形に合わせて調整します。

例2: $$ F(s) = \frac{s+1}{s^2 + 2s + 2} $$

  1. 分母を完全平方の形に:
\[ s^2 + 2s + 2 = (s+1)^2 + 1 \]
  1. 分子を調整:
\[ \frac{s+1}{(s+1)^2 + 1} \]

これは \(\frac{s}{s^2 + 1}\) の形を \(s\)\(s+1\) で置き換えたものです。

  1. シフト定理を適用:
\[ \mathcal{L}^{-1}\left[\frac{s+1}{(s+1)^2 + 1}\right] = e^{-t} \cos t \]

2. 部分分数分解を用いた逆変換

2.1 基本的な部分分数分解

分母が因数分解できる場合、部分分数分解を用いて逆変換を求めます。

例3:

\[ F(s) = \frac{1}{s(s^2 + 1)} \]
  1. 部分分数分解の形を設定:
\[ \frac{1}{s(s^2 + 1)} = \frac{A}{s} + \frac{Bs + C}{s^2 + 1} \]
  1. 係数を決定:
  2. 両辺に \(s(s^2 + 1)\) を掛けて:
\[ 1 = A(s^2 + 1) + (Bs + C)s \]
  • 係数を比較:
    • \(s^2\) の係数:\(A + B = 0\)
    • \(s\) の係数:\(C = 0\)
    • 定数項:\(A = 1\)
  • よって、\(A = 1\), \(B = -1\), \(C = 0\)

  • 逆変換を適用して解の候補を得る:

\[ \mathcal{L}^{-1}\left[\frac{1}{s} - \frac{s}{s^2 + 1}\right] = 1 - \cos t \]
  1. 得られた関数が実際に解となることを確認:
  2. この関数は連続的微分可能
  3. 元の微分方程式に代入して、等式が成り立つことを確認
  4. 初期条件も満たすことを確認

3. 微分方程式への応用

3.1 2階線形微分方程式

ラプラス変換を用いて微分方程式を解く手順を示します。

例4: $$ y'' + 3y' + 2y = 0, \quad y(0) = 1, \quad y'(0) = 0 $$

  1. ラプラス変換を適用:
\[ s^2Y(s) - s + 3(sY(s) - 1) + 2Y(s) = 0 \]
  1. \(Y(s)\) について解く:
\[ Y(s) = \frac{s+3}{s^2 + 3s + 2} = \frac{2}{s+1} - \frac{1}{s+2} \]
  1. 逆変換を適用して解の候補を得る:
\[ y(t) = 2e^{-t} - e^{-2t} \]
  1. 得られた関数が実際に解となることを確認:
  2. この関数は連続的微分可能
  3. 元の微分方程式に代入:
\[ (2e^{-t} - e^{-2t})'' + 3(2e^{-t} - e^{-2t})' + 2(2e^{-t} - e^{-2t}) = 0 \]
  • 初期条件の確認:
\[ y(0) = 2e^0 - e^0 = 1 \]
\[ y'(0) = -2e^0 + 2e^0 = 0 \]
  • 以上より、この関数は与えられた微分方程式の解であることが確認できる

4. 重要ポイントのまとめ

  1. 完全平方の利用
  2. 分母が2次式の場合、完全平方の形に変形する
  3. シフト定理を適用して逆変換を求める

  4. 部分分数分解

  5. 分母が因数分解できる場合、部分分数分解を行う
  6. 係数を比較して未知数を決定する

  7. 微分方程式の解法

  8. 初期条件を考慮してラプラス変換を適用する
  9. 代数方程式を解いて \(Y(s)\) を求める
  10. 逆変換を適用して解の候補を得る
  11. 得られた関数が実際に微分方程式の解となることを確認する

  12. 解の存在と一意性

  13. ラプラス変換によって得られた関数は解の候補である
  14. 不連続点や特異点での解の性質を個別に検討する必要がある
  15. 必要に応じて、得られた関数が微分方程式を満たすことを直接確認する

5. 練習問題のヒント

  1. 完全平方を作る際は、定数項を調整することを忘れない
  2. 部分分数分解では、分母の因数に注意して分解の形を決める
  3. 微分方程式を解く際は、初期条件を正確に反映させる