フーリエ級数展開(具体的な関数のフーリエ係数計算、三角関数展開)
学習目標
この授業では、以下の概念と技能を習得することを目指します: - 具体的な関数のフーリエ級数展開を計算できる - 偶関数・奇関数の性質を活用して計算を簡略化できる - 三角関数の性質を理解し、計算に活用できる
1. 主要な概念と定義
1.1 フーリエ級数展開の一般形
区間 \([-\pi, \pi)\) で区分的に連続な関数 \(f(x)\) のフーリエ級数展開は以下の形で表される:
ここで、係数 \(a_n\), \(b_n\) は以下の式で与えられる:
注意: - 関数 \(f(x)\) は区間 \([-\pi, \pi)\) で区分的に連続である必要があります。このときフーリエ級数展開が可能です。 - \(x\)が 連続な点であれば さらに $$ f(x) = \frac{f(x-0) + f(x+0)}{2} = \frac{a_0}{2} + \sum_{n=1}^{\infty} (a_n \cos nx + b_n \sin nx) $$
- 区間の端点では不連続にもなり得るので特に注意しよう。
- このフーリエ級数は、\(f(x)\) を周期 \(2\pi\) の周期関数として拡張したものに対応します
- フーリエ級数展開の収束性や一様収束性については、第2回の講義ノートを参照してください
1.2 偶関数・奇関数の性質
-
偶関数: \(f(-x) = f(x)\)
- 例: \(x^2\), \(\cos x\)
- 性質: 偶関数の積分は区間を半分にできる(任意の \(a > 0\) について) $$ \int_{-a}^{a} f(x) \, dx = 2 \int_{0}^{a} f(x) \, dx $$
-
奇関数: \(f(-x) = -f(x)\)
- 例: \(x\), \(\sin x\)
- 性質: 奇関数の積分は0になる(任意の \(a > 0\) について) $$ \int_{-a}^{a} f(x) \, dx = 0 $$
-
積の性質:
- 偶関数×偶関数 = 偶関数
- 奇関数×奇関数 = 偶関数
- 偶関数×奇関数 = 奇関数
証明: 1. 偶関数の積分:
- 奇関数の積分:
注意: これらの性質は任意の \(a > 0\) について成り立ちます。特に、\(a = \pi\) の場合はフーリエ級数展開の計算でよく用いられます。
1.3 三角関数の性質
- \(\cos(-x) = \cos x\) (偶関数)
- \(\sin(-x) = -\sin x\) (奇関数)
-
\(\cos n\pi = (-1)^n\)
-
倍角の公式:
- \(\sin^2 x = \frac{1 - \cos 2x}{2}\)
- \(\cos^2 x = \frac{1 + \cos 2x}{2}\)
証明: 加法定理 \(\cos(a+b) = \cos a \cos b - \sin a \sin b\) において、 \(a = b = x\) とおくと、 $$ \cos 2x = \cos^2 x - \sin^2 x $$ これに \(\sin^2 x + \cos^2 x = 1\) を代入すると、 $$ \cos 2x = 2\cos^2 x - 1 = 1 - 2\sin^2 x $$ これを変形して、 $$ \cos^2 x = \frac{1 + \cos 2x}{2}, \quad \sin^2 x = \frac{1 - \cos 2x}{2} $$ が得られます。
2. 計算例
例題1: 奇関数のフーリエ級数展開
関数 \(f(x) = x\)(\(-\pi \le x < \pi\))のフーリエ級数展開を求める。
- 奇関数であることを確認
-
\(f(-x) = -x = -f(x)\) より奇関数
-
\(a_n\) の計算(\(n=0,1,2,\dots\)):
- 定義式 \(a_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} x \cos nx \, dx\) を用いる
- \(f(x)=x\) は奇関数、\(\cos nx\) は偶関数 → 積は奇関数
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奇関数の積分は0 → 全ての \(n\) に対し \(a_n = 0\)
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\(b_n\) の計算(部分積分の詳細):
- フーリエ級数: $$ f(x) \sim \sum_{n=1}^{\infty} b_n \sin nx = 2\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^{n+1}}{n} \sin nx $$
例題2: 偶関数のフーリエ級数展開
関数 \(f(x) = x^2\)(\(-\pi \le x < \pi\))のフーリエ級数展開を求める。
- 偶関数であることを確認
-
\(f(-x) = (-x)^2 = x^2 = f(x)\) より偶関数
-
\(b_n\) の計算
- 偶関数と奇関数(\(\sin nx\))の積は奇関数
-
奇関数の積分は0なので、\(b_n = 0\)
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\(a_n \ (n \geq 1)\) の計算(部分積分の詳細):
- \(a_0\) の計算:
- 結果:
3. 重要ポイントのまとめ
-
計算の効率化:
- 関数が偶関数か奇関数かを最初に確認
- 適切な性質を活用して計算を簡略化
- 三角関数の性質を活用
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注意点:
- 積分区間を正しく設定
- 部分積分を適切に用いる
- 計算結果の簡略化を忘れない