コンテンツにスキップ

第13回 ラプラス変換による常微分方程式の解法 講義ノート

学習目標

この授業では、以下の概念と技能を習得することを目指します: - ラプラス変換を用いた常微分方程式の解法の理論的背景を理解する - 初期値問題における解の存在と一意性の条件を理解する - 非斉次(inhomogeneous)な常微分方程式の解法を習得する - 実践的な例題を通じて解法の応用力を養う

1. ラプラス変換による解法の理論的背景

1.1 解の存在と一意性

基本的な定理 - 1階微分方程式 \(y' = f(t,y)\) について: - \(f(t,y)\) が連続かつ \(y\) についてリプシッツ連続 - 初期条件 \(y(t_0) = y_0\) が与えられている - このとき、解の存在と一意性が保証される

リプシッツ条件の意味 - 関数 \(f(t,y)\)\(y\) についてリプシッツ連続とは:

\[ |f(t,y_1) - f(t,y_2)| \leq L|y_1 - y_2| \]

を満たす定数 \(L > 0\) が存在すること - この条件は、解の一意性を保証する重要な条件

1.2 ラプラス変換の理論的基礎

変換の定義と収束条件

\[ \mathcal{L}\{f(t)\} = \int_0^\infty e^{-st}f(t)dt \]
  • 変換が存在するための条件:
  • \(f(t)\) は区分的に連続
  • ある \(M > 0\), \(\alpha \in \mathbb{R}\) に対して
\[ |f(t)| \leq Me^{\alpha t} \]

が成り立つ

微分法則の導出

\[ \mathcal{L}\{y'(t)\} = sY(s) - y(0) \]
  • 部分積分を用いて導出
  • 初期条件が自動的に取り込まれる理由

合成積(畳み込み積分)の性質

  • 2つの関数 \(f(t)\), \(g(t)\) の合成積は以下のように定義される:
\[ (f * g)(t) = \int_0^t f(\tau)g(t-\tau)d\tau \]
  • 合成積のラプラス変換は、個々の関数のラプラス変換の積となる:
\[ \mathcal{L}\{f * g\} = F(s)G(s) \]
  • これは例題4の解の導出に直接関係

合成積(畳み込み積分)の性質が理論的に成り立つ理由について、以下に詳しく説明します。


畳み込み定理の理論的根拠と証明

関数 \(f(t)\)\(g(t)\) の畳み込み \((f * g)(t)\) のラプラス変換が、それぞれのラプラス変換の積に等しくなること(畳み込み定理)は、以下のようにして理論的に導かれます。

まず、畳み込み \((f * g)(t)\)

\[ (f * g)(t) = \int_0^t f(t-u)g(u)du \]

と定義されます。

この畳み込みのラプラス変換を考えると、

\[ \mathcal{L}[(f * g)(t)](s) = \int_0^{\infty} e^{-st} \left( \int_0^t f(t-u)g(u)du \right) dt \]

となります。ここで、積分領域を \((t,u)\) 平面で考察し、フビニの定理により積分の順序を交換します。すると、

\[ \mathcal{L}[(f * g)](s) = \int_0^{\infty} \int_u^{\infty} e^{-st} f(t-u)g(u) dt du \]

となります。次に、内側の積分で変数変換 \(\tau = t - u\) を行うと、\(t = u\) のとき \(\tau = 0\)\(t \to \infty\) のとき \(\tau \to \infty\) となり、

\[ \mathcal{L}[(f * g)](s) = \int_0^{\infty} g(u) \int_0^{\infty} e^{-s(\tau + u)} f(\tau) d\tau du \]

となります。ここで指数関数の性質より \(e^{-s(\tau + u)} = e^{-s\tau} e^{-su}\) なので、

\[ \mathcal{L}[(f * g)](s) = \int_0^{\infty} g(u) e^{-su} \int_0^{\infty} e^{-s\tau} f(\tau) d\tau du \]

となります。内側の積分は \(f(\tau)\) のラプラス変換 \(F(s)\) なので、

\[ \mathcal{L}[(f * g)](s) = F(s) \int_0^{\infty} g(u) e^{-su} du \]

となり、\(F(s)\)\(u\) に関して定数なので外に出せます。外側の積分は \(g(u)\) のラプラス変換 \(G(s)\) ですから、

\[ \mathcal{L}[(f * g)](s) = F(s) \cdot G(s) \]

が得られます。

このようにして、

\[ \boxed{\mathcal{L}[(f * g)(t)](s) = \mathcal{L}[f(t)](s) \cdot \mathcal{L}[g(t)](s)} \]

が理論的に成り立つことが示されます。

この定理は、時間領域での畳み込み演算がラプラス領域(\(s\)領域)では単純な掛け算に対応することを意味しており、微分方程式の解法において畳み込みが強力な道具となる理由です。


2. 1階微分方程式の解法

2.1 斉次方程式

標準形と解の存在条件

\[ y' + ay = 0, \quad y(0) = y_0 \]
  • \(a\) が定数の場合、リプシッツ条件は自明に満たされる
  • 解の存在と一意性が保証される

解法の理論的根拠 1. ラプラス変換を適用:

\[ sY(s) - y_0 + aY(s) = 0 \]
  1. \(Y(s)\) について解く:
\[ Y(s) = \frac{y_0}{s + a} \]
  1. 逆ラプラス変換:
\[ y(t) = y_0e^{-at} \]
  • この解が一意であることは、リプシッツ条件から保証される

2.2 非斉次方程式

標準形と解の存在条件

\[ y' + ay = f(t), \quad y(0) = y_0 \]
  • \(f(t)\) が連続かつ有界なら、解の存在が保証される
  • \(a\) が定数なら、リプシッツ条件から一意性も保証される

解法の理論的根拠 1. ラプラス変換を適用:

\[ sY(s) - y_0 + aY(s) = F(s) \]
  1. \(Y(s)\) について解く:
\[ Y(s) = \frac{y_0}{s + a} + \frac{F(s)}{s + a} \]
  1. 逆ラプラス変換:
\[ y(t) = y_0e^{-at} + \int_0^t e^{-a(t-\tau)}f(\tau)d\tau \]
  • この解の一意性は、リプシッツ条件から保証される

3. 2階微分方程式の解法

3.1 斉次方程式

標準形と解の存在条件

\[ y'' + ay' + by = 0, \quad y(0) = y_0, \quad y'(0) = y_1 \]
  • 係数 \(a\), \(b\) が定数の場合、解の存在と一意性が保証される
  • 特性方程式の解の性質が解の挙動を決定

解法の理論的根拠 1. ラプラス変換を適用:

\[ s^2Y(s) - sy_0 - y_1 + a(sY(s) - y_0) + bY(s) = 0 \]
  1. \(Y(s)\) について解く:
\[ Y(s) = \frac{(s + a)y_0 + y_1}{s^2 + as + b} \]
  1. 逆ラプラス変換で解を求める
  2. 解の一意性は、2階微分方程式の理論から保証される

3.2 非斉次方程式

標準形と解の存在条件

\[ y'' + ay' + by = f(t), \quad y(0) = y_0, \quad y'(0) = y_1 \]
  • \(f(t)\) が連続かつ有界なら、解の存在が保証される
  • 係数が定数なら、一意性も保証される

解法の理論的根拠 1. ラプラス変換を適用:

\[ s^2Y(s) - sy_0 - y_1 + a(sY(s) - y_0) + bY(s) = F(s) \]
  1. \(Y(s)\) について解く:
\[ Y(s) = \frac{(s + a)y_0 + y_1}{s^2 + as + b} + \frac{F(s)}{s^2 + as + b} \]
  1. 逆ラプラス変換で解を求める
  2. 解の一意性は、2階微分方程式の理論から保証される

4. 実践的な例題

4.1 基本的な例題

例題1:1階斉次方程式

\[ y' + 2y = 0, \quad y(0) = 1 \]
  • リプシッツ条件:\(L = 2\) で満たされる
  • 解:\(y(t) = e^{-2t}\)
  • 解の一意性が保証される

例題2:1階非斉次方程式

\[ y' + 2y = t, \quad y(0) = 0 \]
  • リプシッツ条件:\(L = 2\) で満たされる
  • 解:\(y(t) = \frac{1}{4}(2t - 1 + e^{-2t})\)
  • 解の一意性が保証される

解答例:

方程式の両辺にラプラス変換を適用:

\[ \mathcal{L}\{y' + 2y\} = \mathcal{L}\{t\} \]
  • 線形性と微分法則より:
\[ sY(s) - y(0) + 2Y(s) = \frac{1}{s^2} \]
  • 初期条件 \(y(0) = 0\) を代入:
\[ sY(s) + 2Y(s) = \frac{1}{s^2} \]
  • \(Y(s)\) について解く:
\[ (s + 2)Y(s) = \frac{1}{s^2} \]
\[ Y(s) = \frac{1}{s^2(s + 2)} \]
  1. 部分分数分解:
  2. \(\frac{1}{s^2(s+2)} = \frac{A}{s} + \frac{B}{s^2} + \frac{C}{s+2}\)
  3. 係数比較により、\(A = -\frac{1}{4}\), \(B = \frac{1}{2}\), \(C = \frac{1}{4}\)
  4. したがって:
\[ Y(s) = -\frac{1}{4}\frac{1}{s} + \frac{1}{2}\frac{1}{s^2} + \frac{1}{4}\frac{1}{s+2} \]

部分分数展開の理論的背景:

  1. 分母の因数分解の意味
  2. \(s^2(s+2) = s \cdot s \cdot (s+2)\) は、\(s\) が2重根、\((s+2)\) が1重根
  3. 部分分数展開の一般定理により、各因数に対応する項が必要

  4. なぜ3つの項が必要か

  5. \(s^2\) に対して:\(\frac{A}{s} + \frac{B}{s^2}\)(2重根なので2項)
  6. \((s+2)\) に対して:\(\frac{C}{s+2}\)(1重根なので1項)
  7. 合計3項が必要

  8. 理論的保証

  9. 有理関数の空間で、\(\left\{\frac{1}{s}, \frac{1}{s^2}, \frac{1}{s+2}\right\}\) は線形独立
  10. 任意の \(\frac{P(s)}{s^2(s+2)}\)\(\deg P < 3\))は、この基底で一意に表現可能
  11. 剰余定理により、解の存在と一意性が保証される

  12. 係数の決定方法

  13. 通分して係数比較
  14. または留数法による計算
  15. いずれの方法でも同じ結果が得られる

  16. 逆ラプラス変換:

  17. \(\mathcal{L}^{-1}\{\frac{1}{s}\} = 1\)
  18. \(\mathcal{L}^{-1}\{\frac{1}{s^2}\} = t\)
  19. \(\mathcal{L}^{-1}\{\frac{1}{s + 2}\} = e^{-2t}\)
  20. したがって、解は:
\[ y(t) = -\frac{1}{4} + \frac{1}{2}t + \frac{1}{4}e^{-2t} = \frac{1}{4}(2t - 1 + e^{-2t}) \]
  1. 解の検証:
  2. 初期条件の確認:
    • \(y(0) = \frac{1}{4}(0 - 1 + 1) = 0\)
  3. 微分方程式への代入:
    • \(y'(t) = \frac{1}{2} - \frac{1}{2}e^{-2t}\)
    • \(y' + 2y = \frac{1}{2} - \frac{1}{2}e^{-2t} + 2 \cdot \frac{1}{4}(2t - 1 + e^{-2t}) = t\)
  4. 解の一意性は、リプシッツ条件から保証されている

4.2 応用例題

例題3:2階斉次方程式

\[ y'' + 4y' + 4y = 0, \quad y(0) = 1, \quad y'(0) = 0 \]
  • 特性方程式:\(\lambda^2 + 4\lambda + 4 = 0\)
  • 解:\(y(t) = (1 + 2t)e^{-2t}\)
  • 解の一意性が保証される

例題4:2階非斉次方程式

\[ y'' + y = \sin t, \quad y(0) = 0, \quad y'(0) = 0 \]
  1. 解の存在と一意性の確認:
  2. 係数が定数(\(a = 0\), \(b = 1\))なので、リプシッツ条件は自明に満たされる
  3. 非斉次項 \(\sin t\) は連続かつ有界(\(|\sin t| \leq 1\)
  4. 特性方程式 \(s^2 + 1 = 0\) の解は \(s = \pm i\) で、実部が0なので安定
  5. 以上より、解の存在と一意性が保証される

  6. ラプラス変換による解法:

  7. 左辺の変換:
    • \(y''\) のラプラス変換:\(s^2Y(s) - sy(0) - y'(0) = s^2Y(s)\)
    • \(y\) のラプラス変換:\(Y(s)\)
  8. 右辺の変換:
    • \(\sin t\) のラプラス変換:\(\frac{1}{s^2 + 1}\)
  9. 変換後の方程式:
\[ s^2Y(s) + Y(s) = \frac{1}{s^2 + 1} \]
  1. \(Y(s)\) について解く:
  2. \(Y(s)\) の項を左辺にまとめる:\((s^2 + 1)Y(s) = \frac{1}{s^2 + 1}\)
  3. 両辺を \((s^2 + 1)\) で割る:
\[ Y(s) = \frac{1}{(s^2 + 1)^2} \]
  1. 逆ラプラス変換:
  2. \(\frac{1}{(s^2 + 1)^2}\) の逆ラプラス変換を求める
  3. 部分分数分解:\(\frac{1}{(s^2 + 1)^2} = \frac{1}{2}(\frac{1}{s^2 + 1} - \frac{s^2}{(s^2 + 1)^2})\)
  4. 逆ラプラス変換の公式:
    • \(\mathcal{L}^{-1}\{\frac{1}{s^2 + 1}\} = \sin t\)
    • \(\mathcal{L}^{-1}\{\frac{s^2}{(s^2 + 1)^2}\} = t\cos t\)
  5. これらを組み合わせて解を求める:
\[ y(t) = \frac{1}{2}(\sin t - t\cos t) \]
  1. 解の検証:
  2. 初期条件の確認:
    • \(y(0) = \frac{1}{2}(\sin 0 - 0\cos 0) = 0\)
    • \(y'(t) = \frac{1}{2}(\cos t - \cos t + t\sin t) = \frac{1}{2}t\sin t\)
    • \(y'(0) = \frac{1}{2} \cdot 0 \cdot \sin 0 = 0\)
  3. 微分方程式への代入:

    • \(y''(t) = \frac{1}{2}(\sin t + t\cos t)\)
    • \(y'' + y = \frac{1}{2}(\sin t + t\cos t) + \frac{1}{2}(\sin t - t\cos t) = \sin t\)
  4. 解の性質:

  5. 解は \(t \to \infty\) で有界
  6. 非斉次項 \(\sin t\) と同じ周期の振動成分を含む
  7. \(t\cos t\) の項により、振幅が時間とともに増大する成分も含まれる
  8. これは共振現象の一例
  9. 初期条件 \(y(0) = y'(0) = 0\) から、解は \(t = 0\) で滑らかに始まる

重要ポイントのまとめ

  1. 解の存在と一意性
  2. リプシッツ条件の重要性
  3. 係数が定数である場合の保証
  4. 非斉次項の連続性と有界性

  5. ラプラス変換の理論的基礎

  6. 変換の収束条件
  7. 微分法則の導出
  8. 初期条件の取り扱い

  9. 実践的な応用

  10. 斉次・非斉次方程式の解法
  11. 解の一意性の確認
  12. 物理的な問題への応用

演習問題のヒント

  1. 基本問題
  2. リプシッツ条件の確認
  3. ラプラス変換の収束条件
  4. 1階微分方程式の解法

  5. 標準問題

  6. 2階微分方程式の解法
  7. 非斉次項の取り扱い
  8. 解の一意性の確認

  9. 発展問題

  10. 複合的な微分方程式
  11. 物理的な応用問題
  12. 解の存在と一意性の証明

逆ラプラス変換の公式: - \(\mathcal{L}^{-1}\{\frac{1}{s^2 + 1}\} = \sin t\) - \(\mathcal{L}^{-1}\{\frac{s^2}{(s^2 + 1)^2}\} = t\cos t\)


補足:微分公式による導出

ラプラス変換の微分公式(s微分公式)は次の通り:

\[ \frac{d}{ds} \mathcal{L}[f(t)] = -\mathcal{L}[t f(t)] \]

したがって、

\[ \mathcal{L}[t f(t)] = -\frac{d}{ds} \mathcal{L}[f(t)] \]

この公式を \(f(t) = \cos t\) に適用すると、

  1. \(\mathcal{L}[\cos t] = \frac{s}{s^2 + 1}\)
  2. 微分公式より $$ \mathcal{L}[t\cos t] = -\frac{d}{ds}\left(\frac{s}{s^2 + 1}\right) $$
  3. 右辺を計算すると $$ -\frac{d}{ds}\left(\frac{s}{s^2 + 1}\right) = -\frac{(s^2 + 1) \cdot 1 - s \cdot 2s}{(s^2 + 1)^2} = -\frac{s^2 + 1 - 2s^2}{(s^2 + 1)^2} = -\frac{1 - s^2}{(s^2 + 1)^2} $$ $$ = \frac{s^2 - 1}{(s^2 + 1)^2} $$
  4. したがって $$ \mathcal{L}[t\cos t] = \frac{s^2 - 1}{(s^2 + 1)^2} $$
  5. ここから $$ \mathcal{L}^{-1}\left[\frac{s^2 - 1}{(s^2 + 1)^2}\right] = t\cos t $$
  6. さらに $$ \frac{s^2}{(s^2 + 1)^2} = \frac{s^2 - 1}{(s^2 + 1)^2} + \frac{1}{(s^2 + 1)^2} $$ より $$ \mathcal{L}^{-1}\left[\frac{s^2}{(s^2 + 1)^2}\right] = t\cos t + \mathcal{L}^{-1}\left[\frac{1}{(s^2 + 1)^2}\right] $$

このように、\(t\cos t\) のラプラス変換は微分公式を使って導出できる。